「……でも」

「いいから」

 強引に手を取り、指先の傷をじっくりと観察し始めるライア。至極真剣な眼差しにこれでもかと言う程心臓が跳ね上がった。いつも遠巻きに妙な視線を送ってきたライアの瞳が、目の前でスズランの指先を注視している。最早痛みなど感じている暇はなかった。

(なな、な、何? 急に何なのー!? セィシェルの言ってた事ってこういう事?)

 半ば混乱しそうになりながらも口を噤んでいると、ライアがおもむろに顔の前で(てのひら)を拡げた。そのまま指先にふっと息を吹きかけられたのだが驚く事に全身が暖かくそよぐ、何とも心地の良い風に包まれた。その途端指先が痺れて熱が集中し傷が癒されてゆくのを目の当たりにした。何とも癖になりそうな感覚だ。傷は瞬く間に塞がり、スズランの指先は何事もなかったかの如く元通りになった。

「……なおった…の?」

「ん、一応治したけど……帰ったら念の為消毒した方がいい」

「……あ、の……どうして治してくれたの?」

 ライアの瞳を覗き込む。
 この国において〝癒しの術〟を駆使する者は多くはない。高貴な生まれの者か、医療関連の職に就いている者が扱う高度な術だと言う事くらいスズランでも知っている。