何故かそこには呆れた様な顔でライアが立っていた。突然の登場に面食らうもその名を軽々しく呼んでしまった事に表情を固くするスズラン。するとライアは不機嫌そうに眉を寄せた。

(あ…。親しくもないのに名前呼んじゃった。気を悪くしたかな…)

 若干申し訳なく思うも、先程エリィとカウンターに居た筈のライアが何故酒場の裏庭(こんなところ)に居るのだろうと疑問が浮かぶ。
 
「あ、あなたこそ……何故ここにいるの?」

「おい、別に待ち伏せとかじゃあないからな? 今から帰るとこだったんだ!」

 ライアは〝例の森〟の方を指差した直後罰が悪そうに口元を押さえた。

「帰るって……でも、その森は王宮の敷地でしょ?」

「ち、近道だ。俺の家はあっちなんだよ……」

 近道の為とは言え、侵入禁止区域である王宮の森へ入る者が自分の他にもいたとは……。何故だかスズランは妙に嬉しい様な複雑な気持ちになり、それを悟られまいと表情を引き締める。
 その場は沈黙に包まれたが、思い出したかの様にぽたりと指先から鮮血が滴り落ち、同時にじんじんとした疼痛も蘇る。

「っ痛」

「手、見せて」

 不意にライアが手を差しのべてきたのであからさまに戸惑ってしまう。