「んんんっ! スズは良い子だな〜!」

 ソニャは涼し気な表情を崩して目尻を下げるとスズランの頭をめいいっぱい撫で回した。

「わあ! ソニャちゃんくすぐったいっ」

「変なやつに絡まれたらすぐに呼びなよ? アタシだってスズのこと守って見せるんだから!」

 そう息巻くソニャ。何故だかこの酒場(バル)にはスズランを過保護にし過ぎる者が集っている様だ。スズランは少し頬を膨らませ、頭上にあるソニャの手を両手で抑えた。

「もう、ソニャちゃんまで! わたしは平気なのに」

「鈍いんだから! ここの男性客らのヤラシイ目付きったら!!」

「え、そうなの?」

「え〜? 気にならない? ほら、あそこのお客なんて店に入って来てからずうっとスズの事見てるし…」

 ソニャが目配せをした店内の奥に視線を移す。すると角の席に一人で座っている人物と瞳が合ったところで思い切り逸らした。

「っ!」

「何、知り合い?」

 知り合いかと問われてスズランは思い切り頭を横に振る。例の〝約束〟を思い出し咄嗟に口を開く。

「あ、あんな人知らない…」

「そお? その割に物凄く熱視線って感じだけど…。てかよく見たら超のつくイケメンじゃん! あ、丁度注文みたいだわ!」