賑わう店内を縫う様に注文(オーダー)をとっては、持ち前の明るさと人好きのする笑顔で来店客を癒すスズラン。
　然しながらセィシェルの行動で〝不可蝕の看板娘〟と囁かれている。知らずにスズランに声をかけよう物なら番犬の如くやって来て下手をすれば本当に噛みつかれる。以前ちょっかい出してきた大男を投げ飛ばし大事(おおごと)になった事もあった。
　それを知っている常連客は注文以外でスズランに声を掛けない。いや、掛けられないのだ。
　それでも僅かな接点を求める客が殺到する為、スズランは本日も店内を駆け回っていた。

「おっつかれ〜、よく働くねぇスズは」

「ソニャちゃん、お疲れさま！」

　スズランの同僚であるソニャはこの店に通いで働いている。どんなに客入りが多くても冷静な態度を崩さずに接客出来る為、スズランはソニャを手本に見習っていた。
　強い癖毛の赤髪に明るい萌黄色(もえぎいろ)の瞳を持つ一見可憐な印象の少女だが、一本筋の通った気丈な性格と辛辣な物言いをする。ソニャにもやはり一定数の支持者(ファン)がいるのだ。

「少し働きすぎだぞ？　今日はアタシも居るんだから少し奥で休んできたら？」

「平気だよ。今日もお客さん多いし一緒に頑張ろ？　ソニャちゃん」