その(てのひら)からは爽やかな微風が発せられ、髪に残る湿り気を散らしてゆく。
 セィシェルの指が優しく髪の中を滑る。頭部全体を包み込み、何度も撫でられる。その心地よさと共に髪は乾いた。更に繊細で細い髪が絡んで傷まない様にと丁寧に(くし)で梳かされる。鼻腔に僅かな柑橘の香りを残して、薄い千草色(ちぐさいろ)の髪はいっそう艷めく様に仕上がった。

「ほら、終わったぜ」

「わあ! 髪すっごくさらさら! ありがとうセィシェル」

 毛先まで手触りの良くなった髪に指を通しながらセィシェルに笑顔で礼を言う。

「こんなの毎日だってやってやるから部屋に上がる前に声かけろよな」

「でも、それじゃセィシェルがめんどうじゃない? 自分で乾かすのは時間はかかるけど平気だよ?」

 スズランは風の民では無い。セィシェルの様に簡単な風を起こす術は疎か、特に何か出来る訳でもない。

「このくらい休憩の合間にすぐ済むだろ」

「それでも、わざわざ時間使ってくれてありがとう!」

 口は悪くとも何かと世話焼きなセィシェルを本当の兄の様に慕っているスズラン。今回もこうして面倒を見てくれた事に表情が緩み鏡越しに微笑んだ。

「……っ…」