そう言ったか言わないか、ユージーンはセィシェルの両腕に次々と大皿料理を乗せていく。

「ぉわ、わ! おい、もっと丁寧に乗せろよ!」

「つべこべ言わずに運べ!」

「はいはい」

 文句を言いながらもセィシェルは店の喧騒の中に入って行った。

「よし。ではスズ、あの手前のお客さんの注文をお願い出来るかい? 待っているみたいだから直ぐに行っておくれ」

「はい!」

 ユージーンに仕事を任された気分になったスズランは気を取り直し、張り切って注文を取りに店内を奔走した。
 途中、エリィに遭遇したのだが彼女は「フラれちゃったから今日は帰るわ」などと意味深な発言を残して帰って行った。
 未成年であるスズランはあまり遅くまでは働けない。キリの良い所で夕食をとり、夜の遅い時間前には仕事を終える。ユージーンやセィシェルは夜半を越えて未明、もしくは明け方まで働く時もある。
 この日もユージーンが用意してくれていた夕食を残さず食べた後、一日の汗を流そうと一人湯を浴びた。この一人の時間にももう慣れたものだ。初めの頃はひどく寂しく感じた。しかし店を切り盛りしながら自分を育ててくれた二人に対し、感謝の気持ちを返したい。