「惚気話なら遠慮するから」

「ん? 惚気話なんて枠には収まりそうにないんだけど。それに、ハリ。お前の言い訳(はなし)も俺が納得するまで、とことんじっくりと聞かせてもらうからな!」

 冷ややかなそぶりのハリに対し、熱っぽく言葉を返すラインアーサ。
 ハリがどんな境遇で育って来たかを知りたい、同時に自分自身の境涯もハリに知ってもらいたい。互いの持つ立場という壁を打ち壊して理解を深め、更なる誼みを結んでいきたいからだ。ハリに関して、これだけは誰がなんと言おうと譲るつもりは無い。

「ふ…。負けたよ、君たち二人には。仕方無いから付き合ってあげる。本当、一生赦してもらえそうにないな───」

 シュサイラスア大国を抱く山々に影が落ち、黄金の太陽が沈む。列車(トラン)は燃える様な夕空に向かって緩やかに速度を落とし始める。車体の屋根に夕陽を反射させながら堂々と走る姿は美しく、シュサイラスアの素晴らしい眺望の一つだ。

「ああ、そのお茶。良い香りだろ? 特別な茶葉を淹れてみたんだ。冷める前に味わってみて」

 ハリはカップに唇を近づけたものの揺らめく銀朱色のそれを口に含む前に一言呟いた。

「いや……突然背中叩かれそうで」

「へえ?」