「…っそんなの知らないもん」

 伏せたままで表情は見えないが、頬を膨らませているのが手に取る様に分かる。まだ機嫌は治っていないらしい。
 そんな彼女の動作一つ一つにさえ愛しさが込み上げ自然と笑顔になる。

「いいよ。俺の大事な思い出って事にしとくから」

「むぅ……なんかずるい」

「ずるくない。それに、からかってなんかない。俺はスズランの事を愛しいと思ったから唇を奪ったんだ。もちろんあの日も、どんな時だって───スズラン、俺……」

 ラインアーサは強く幸福を噛み締めながら、それでもスズランに伝えなくてはならない言葉を言いかける。しかしこれを伝えればまた暫しの間、彼女との二人の時間が取れなくなるのが確定してしまう。
 肝心な言葉を言い躊躇っていると、顔を上げた上目遣いのスズランと視線がぶつかった。

「ライア。わたし、平気だよ…!」

「っ…!」

「捜しに行くんだよね。ハリさんの事」

 その言葉にはっとなる。何もかもを見透かす、澄んだ瞳。

「なんで知って…っ、いや。やっぱりスズランには敵わないな」

「わたし。ライアにたくさん助けてもらったからこうして此処に居るの。いつも、いつだってライアの事考えてるんだから!」