「……へえ。無断で人の部屋に立ち入るのもお前の常識なのか?」

 息巻くセィシェルをものともせず、さらりと言葉を返すライア。だがそれで黙る相手な訳もなく却って勢いは増してゆく。

「は? 扉くらいちゃんと叩いたからな!?」

「返事も待たずに立ち入るのは無作法って習わなかったのか?」

「ま、まって。二人とも…」

 変わらず仲が良いとは思えない二人の言い合いが続く。

「ぐっ、だからって独占するのは違うだろ! 出来るんなら俺だって……いや! とにかくあんたは一旦スズから離れろ!!」

「嫌だ、断る。俺は二度とスズランから離れない」

「ライア!? っんぅ…」

 駄々をこねる子どもみたいな口調で言い放った直後、ライアは見せつけるようにしてスズランの唇を奪った。

「っ…許さねぇ、この変態王子っ!」

「何とでも言えばいい」

「くっ…説教魔! ロリコンのくせに!! 俺はまだ認めてねぇぞ、諦めてもねえからな!!」

「お前のそのしつこさだけは認めてやる」

「うるせえ、あんたこそ…!」

 過熱していく二人の口喧嘩に耐えかねたスズランの悲痛な叫びが部屋中に響いた。

「〜っ! もう、ライアの馬鹿ぁ…!」

「!?」「…っ?」

「わたし一度着替えたいから二人とも出ていって!!」

「えっ。二人ともって、まさか俺も?」

「ライアも! 着替えたらすぐに行くから部屋の外で待ってて!」
(だってよく考えたらものすごく寝起きだし、ずっと寝間着だったって事だし、寝癖もひどいかもだし……それに、いろいろと恥ずかしすぎる…っ!)

「そんな…、俺はもう二度と離れないって…」

「はあぁ。あんた割と馬鹿だろ…、今回は俺のせいじゃあないからな。ほら行くぞ」

 呆れ気味のセィシェルに引っ張られ、意気消沈しながら部屋を後にしたライア。そんな二人の後ろ姿は何処と無く似ている気がした。
 そう言えば以前も似た様な事があった筈だ。スズランは頬を赤らめたまま記憶をひとつひとつ辿るのだった。




  ⌘ 明晰夢の中で ⌘   終