何故か妙に胸がざわついた。

 当たり前だが〝此処〟(夢の中)には良い思い出ばかりでは無く、恐ろしい記憶も混在しているのだと直感する。それはまるで逃げられない悪夢の様に───。

 警鐘の様な酷い頭痛は収まったというのに、スズランの胸は早鐘を打つのを止めなかった。ライアや王宮の医師が懸命に適切な処置を施してくれた為、あの寒気も息苦しさもない。では何故こんなにも不安に怯え、震えているのか。
 スズランは我に返り、不安要素の一つである〝物〟にそっと触れた。自身の首に嵌められている黄金色の首輪飾りだ。

(こ、これ…)

 何時から、何故身に付けているか分からないが物心ついた頃には既に首に嵌められていた。美しい模様が薄く彫られているが繋ぎ目が一切なく、今まで一度も外した事がない。いや、外せないと言った方が正しい。それでもスズランのか細い首筋に良く映えていた。
 もう一つの不安要素はたった今、部屋の外で起きている。扉を一枚挟んだスズランの目の前では、どうしてかライアとその側近である筈のハリが対峙していた。しかもライアの身体には硝子の破片が無数に突き刺さり、傷口からは多量の鮮血が滴っているのだ。

「───すぐに済むからそこで大人しくしてればいい」