「ねえライア。雨が降ってるのに何で誰も傘をさしてないの?」

「大丈夫すぐに止むよ。この雨は年に一度降る祝福の雨(ベンディシォン・ジュビア)だから、皆敢えて浴びてる」

「祝福の雨?」

「収穫祭では毎年それに合わせて祝福の雨が降る。毎年作物の収穫を祝ってマルティーン帝国が賜ってくれているんだ」

「そうなんだ…! とっても素敵!」

「それと丁度この日没前の夕陽に照らされて輝く祝福の雨を浴びると、一年間健康で居られるって…」

「それって今降ってる雨?」

「そう…。正に今だから幸運だったかな」

 ライアがそう言いながら空を見上げたのでスズランもつられて顔を上げた。
 聳える山脈。その稜線に沈みゆく太陽。紺色と橙色の雲が織り成す空模様。山陰と雲の隙間から溢れる光に反射して黄金の雨粒が一粒一粒輝きながら落ちてくる。そのあまりにも刹那的な美しさに息を飲む。街に居る人々からもため息混じりの歓声が上がった。太陽が完全に隠れると同時に降り止む雨。スズランは暫く空を見上げたまま、今こうしてライアと居られる事を感謝して大気に祈りを捧げた。

「すごく綺麗……」

「俺も浴びたのは久しぶりだよ」

「ライアと二人で見れてうれしい!」

 心からそう思った。