ライアは降参だと言わんばかりにはにかんだかと思えば仕返しするかの様にスズランの唇を攫った。敵わないのはこちらの台詞だと小さく頬を膨らませ、目で訴える。ライアといるとこの攻防が絶えない。
 誰もが好きになりそうな甘い笑顔に、澄んだ瑠璃色(るりいろ)の瞳。不思議な魅力を持つライアに一目で魅入られてしまったのはスズランの方だと言うのに。

「あ……雨降りそう。傘いるかな…?」

 天気雨なのか晴れているのにはらはらと細かい雨粒が落ちてきた。酒場(バル)の裏戸口にかけてある傘を持ち出すも、開こうとしてもたついてしまう。

「荷物俺が持つよ」

「このくらい平気だよ」

「駄目。ほら鞄、その傘も俺が持つ。行こう」

「……うん、ありがとう」

 ライアは降り出した小雨など気にせず、傘もささずにスズランの手を引くとそのまま表通りへと出た───。
 色とりどりに飾られた街の姿がスズランの目に飛び込んでくる。沢山の祭り客で普段の倍以上にも賑わっていた。先の帰国時の祝祭(フェスト)よりも観光目的で訪れた他国からの民が多いのが見て取れる。

「今年はまた盛大だな!」

「…っお祭りってすごい! 街中とっても綺麗な飾り! それに、こんなにたくさん人がいるなんて…」