両頬に集中する熱を隠しながら自室への階段を駆け上り、部屋に入るなり吐息を漏らした。
 舞い上がりそうなのを抑えながら鏡台の前で身だしなみを整える。鏡には櫛で髪を梳かす自分自身がうつるが、自分でも恥ずかしくなる程に真っ赤な顔をしていた。

「と、とにかく着替えないと…!」

 裏庭でライアが待っていてくれる。そう思うだけでそわそわと落ち着かない。スズランは壁に掛けてあるローブを手に取った。繊細で美しいそれはライアから贈られた宝物だ。ちゃんと丁寧に洗濯をしてからは一度も袖を通さず、ただ眺めていた。それだけで幸せな気分になれるほど大切なのだ。だが今日こそこのローブを身につける時だと思った。身支度を終えてテラスの扉をそっと開く。階段を降りようとした所、僅かに唸り声が聞こえてくる。

「……ライア? ごめんなさい待たせちゃった?」

「へ? ……あ、いや全然待ってない!! 俺の方こそ急かして悪かっ…た…!?」

 ライアは階段のすぐ下で待ってくれていたのか、こちらを見上げたが丁度傾いた陽射しに当てられて目を細めた。余程眩しかったのかそこで言葉を切ったまま微動だにしない。
 もしかしてこのローブを着て来たのがいけなかったのだろうか。