「そうなの、この祝祭(フェスト)のおかげで今日からお客様の入りが倍になるって…! だから準備が大変で、今ここに息抜きに来てたとこだったの」

「そうか、なら好きな時に此処へ息抜きに来るといい……」

「ありがとう! でもこの国の王様って本当にお祭り好きなんですね。半年後には収穫祭(リコルト・フェスト)だってあるのに、賑やか過ぎると色々あるからちょっぴり心配になっちゃう……」

 そう口に出してからはっとなった。
 この国の警備隊員に向かって無神経な事を言ってしまったと……。思っている事をそのまま素直に口に出してしまうのはスズランの長所でもあるが短所だ。

「……この国の警備は決して怠ってはいない」

 案の定警備隊員は不機嫌そうに返答してきた。

「あの! そんなつもりじゃないです……変に意見してしまってごめんなさい……」

「いや……自分もそう感じていたから」

 辺りはすっかりと夜の空気に変わっていた。心地良かった風も冷たくなり肌寒い。

「あ! もうそろそろ開店時間!! 急いで戻らないとまた怒らられちゃう。わたし、この森のすぐ表にある〝Fruto del amor 〟っていう酒場(バル)で働いてるの。警備さんも非番の時に来てくれると嬉しいな」

 そう言って先程の失言を詫びる様に警備隊員の顔を見てはにかんだ。そのまま小さく会釈をすると急いで森の中へと駆け戻った。

 酒場(バル)の裏庭まで戻ってくると一気に安堵が押し寄せる。そして自室への外階段を一気にかけ昇ると部屋のベッドへと勢い良く飛び込んだ。

「っ…びっくりした! まさか警備の方がいるなんて……でも…、また来てもいいって! でもでも、本当にいいのかな? わあ! どうしよう!!」

 スズランは枕に顔を埋めて抱き込むと、何とも言えない感情を抑えきれずじたばたと足をばたつかせたのだった。