「……まあ、あのお調子者の馬鹿息子が?」

「スズラン様、何もされませんでしたか? その……兄は何かと女性に手が早いといいますか…。特にスズラン様の様なお綺麗な方には」

「ええっ? いえ、いつも助けていただいて本当に感謝の言葉しか…」

 二人の評価に驚く。確かに彼は気さくで親しみやすい性格だ。しかし嫌な思いをした事など一度もない。

「あの子ったらいつもあんな調子でしょう? スズラン様のご迷惑にならぬよう努めますので、これからもどうぞ宜しくお願いしますね」

 このサリベルの人情は間違いなくジュリアンに受け継がれている。しっかり者の妹リーナも加わりあたたかい家庭が垣間見え、スズランはほんの少し羨ましく思いながら返事を返した。
 裾を手直ししていたサリベルがしつけ糸を抜き、やり切った顔で立ち上がる。髪はリーナがふんわりと仕上げ、可愛らしく留め上げてくれた。姿見で全身を確認するも映っているのは自分ではなく、美しい薄紅色の綺羅を纏った別人の様に思えた。

(すごい! ドレスも髪もきらきらしてる…っ)

 いつもの酒場(バル)の給仕服を着ている自分とはまるで比べ物にならない。似合っているかどうかは抜きにしても乙女心が高まる。