加えて、侍女長のサリベルは良く口が回る。洗髪をすれば指通りが滑らかだと髪質を褒め讃え、肌を磨けばまるで陶器の様だと絶賛した。彼女の強引かつ素早い動作、それでいて丁寧な手つきはもはや職人技だ。

(もう、何がどうなってるの?!)

 そもそも王宮にやって来た理由はライアの助けになりたかったからだ。それなのに何故、この様な誠意のこもった持て成しを受けているのか。それともこれは晩餐会に出席するにあたって、必要な事なのだろうか。半ば混乱気味の頭で懸命に考えてみるが、ますます混乱するだけだった。本当に何がなんだかである。
 湯浴みはあれよあれよという間に修了した。そして現行、スズランの上半身は骨の入った補正下着(コルセット)に苦しめられていた。

「もうすこーしだけ締めますね!」

 サリベルはそう言いながら容赦なく背中の紐を力いっぱい引っ張った。

「サ、サリベルさん…。も、ほんとうに無理です…っ」

「あとほんの少しですから!」

「んんぅ…っ」

 ほんの少しと聞こえた筈だが下着の締め付けはまだまだきつくなる。声にならない悲鳴と共にもうこれ以上は絶対に締まらないだろうと根を上げようとした所、扉がコンコンと二回程音を立てた。