「うふふ、これは殿下が骨抜きにされちゃう訳ね。こんなに可愛らしいなんて! 私でもきゅんとしちゃうもの」

 もはや何を言われても恥ずかしい。隣でにこにこと頷いていたコルトだが胸元から懐中時計を取り出し、時刻を確認すると我に返る。

「おっと! サリー、遅れてきて申し訳ないけど時間が迫ってる。今からで間に合うかい?」

「そうだったわね、準備は万端だから任せてちょうだい。絶対間に合わせるわ!」

「ドレスは?」

(え…、ドレスを着るの…?)

「既に何点か選んであるのよ」

「では頼むよ。私は別の部屋で待機しているからお支度がお済み次第すぐに呼びつけてくれ」

「了〜解! あ、この際だからリーナも呼んできてくれると助かるわ」

 コルトは穏やかな顔ばせで「任されたよ」と言いながら部屋を出ていってしまった。兄を見送るとくるりと振り向き、俄然張り切り出す妹。

「さあ! ではまず、奥の浴室で軽く湯浴みをいたしましょうね、スズラン様!」

「えっ? 湯浴みって、あの…! ええ!?」

 そこからは怒涛の如く慌ただしい時が過ぎたように思う。と言うのも、こんな風に自身の身体を他人に預けたことなど物心ついてからは一度もないからだ。