「でも一人でたくさんは着こなせないよ」

「スズランは何を着ても似合うから。それに…、いや。何でもない」

「?」

 語尾に残る妙な含み。更に、どこか思い詰めた瞳で見つめてくる。スズランはこの瞳に弱い。そもそもラインアーサに見つめられて振り切れる訳が無い。

「迷惑だった?」

「そんな! 違うの! 迷惑だとかそういう事じゃないの。ライアが贈ってくれたんだもん、全部わたしの宝ものだよ…! だから一つ一つを大切にしたいの」

 スズランの必死な訴えに優しく微笑み、額に小さく唇を落とすと観念したのかぽつりと呟いた。

「ん、ありがとう。ああ、でもそうなるとやっぱり悔しいな」

「…?」

「だって、あの時のドレスは俺が選んだやつじゃあなかったから」

「……あの時って…」

 そう言えば……。衣類部屋にはラインアーサに贈られたものでは無いドレスが一着だけある。恐らくもう着る出番は無さそうだが、今も大切に保管しているとても思い出深いドレスだ。

「今でも覚えてるよ。あの時、薄紅色のドレスに身を包んで緊張しながら俺の目の前で自己紹介してくれただろ? 悔しいけど、すごく似合ってた…。本当に綺麗で、ほんの一秒もスズランから目が離せなかったんだから」