硝子には雨と共に飛ばされて来たと思しき木の葉が何枚も張り付いている。

「な、何…?」

 間髪を入れずに窓や扉までもががたがたと音を立て始めるが、すぐにおさまった。

「今の…、風?」

 どうやら突風と同等な強い横風が一瞬のうちに通り抜けた様だった。おそらくただの通り風だろう。だが、どうしてか酷く胸騒ぎを覚えてスズランは立ち上がろうとした。しかし上手く足に力が入らずそのままベッドの上で均衡を崩す。

「あっ…」

 立ち上がる事もままならない情けない自分にまた涙が溢れそうになる。何とか堪えると膝を抱えて顔を伏せた。

(…っ……ライア……お願いだから無事で…)

 精気があからさまに摩耗していくのが手に取って分かる。身体は動かないのに気持ちだけがから回る。何をしようとしても頭の中にかかる白い靄が邪魔をする。
 それはまるで、窓にかかる薄い垂れ絹(カーテン)が幾重にも重なっているかの様だった。一枚一枚は脆く薄いが、開いても開いても次々と現れて永遠に外の景色を見る事が出来ない。
 それが大切な〝何か〟と言う事は分かっているのにたどり着けない。この届きそうで届かないもどかしさはスズランを眠らせてもくれない。