そんなスズランを抱き上げるとユージーンは足早に酒場(バル)へと踵を返す。

「親父っ! 待てよ、スズは俺が…」

「……」

「……本当に不憫な姫君です」

 ハリは眉をひそめ、酒場(バル)へと戻るユージーンらの背に向けて小さく呟いた。


 涙が止まらない。
 止め方が分からない。
 どうして泣いているのか、何故止まらないのかも分からない。

 ここは自室なのに真っ白な空間にひとりぼっちで取り残された迷子の気分だ。
 目的を無くし、ベッドの上に縮こまる。
 酒場(バル)に戻るなり無言のユージーンに自室へと押し込まれた。どうやら部屋の出入口に外側から何らかの術をかけ、開かない様にしたらしい。スズランが中から出る事は出来ない。
 これ程までにユージーンを怒らせた事は未だかつて無かった。

(……マスター、すごく怖い顔してた…。わたし、何をどうしたらいいの? 本当に此処に居ていいの?)

 とりあえず雨に濡れた服から寝間着へと着替えはさせてもらえたが、身体は冷えたままだ。というかこの長雨続きで洗濯が滞り、着る物が寝間着と仕事着と普段着が一着づつしかない。その普段着はたった今雨に濡れてどろどろになってしまった。