スズランはゆっくりとその場に膝を付いてへたり込んだ。視線をあげると雨に濡らされ、小さなカンテラを掲げて立つハリが目に入る。

「……何で泣いている？」

「わ、わからないの。でもとっても悲しくて…」

「そう…、ですか。でもご心配なく。ライアの事は私に任せてください」

「……」

　訳も分からず涙が溢れてくる。何かを言い返したいのに適切な言葉が出てこない。
　程なくして背後から水音を散らす数人の乱れた足音が聞こえてくる。

「……スズ！！」

　ゆっくりと振り返ると酷く青ざめた顔色のユージーンが飛ぶ様に駆け寄って来た。その後ろにはセィシェルと数名の警備隊員も居る。

「ああ皆さん、良い所へ。スズランさんがどんどんこの森に入って行くので驚いて…。とりあえず私がここで引き止めましたがいくらこの森が安全とは言え、未成年者の外出は危険です」

「ったく何やってんだよスズ！」

「……ハリ殿、引き止めて下さり感謝します。ですがスズを早く此方へ…！」

「お、親父？」

「……早く戻ろう」

　スズランは涙の止まらない瞳でぼんやりとそのやり取りを見つめていた。鬼気迫る様な表情のユージーンを見ても立ち上がる事すら出来ない。