それはずっと夢だと信じて疑わなかったあの夢。

 ───美しい夕暮れ。
 小川のせせらぎに合わせて囀る小鳥たち。
 幼い頃から幾度と無く繰り返し見る夢。
 父親とはぐれ迷子になったスズランを励ましてくれる優しい人物。
 太陽の様に明るい笑顔を浮かべながら一緒に父を(さが)すと約束し、泣き虫な自分に〝涙が止まるおまじない〟と言って、(まぶた)に口づけをしてくれた人物。

 あれは確かにライアだ───。
 その事実にスズランの心が浮き立つ。しかし浮上した幸福感は束の間、それを叩き落とす様なハリの言葉に戦慄する。

「……ふぅん。じゃあその辺の記憶もまた(・・)全部忘れさせてあげるよ。そしたらこの共鳴するくだらない〝報い〟とやらも消える筈」

「いや! やめてっ!!」

「ああ、残念だけどもう時間切れだ。小賢しい番犬たちが不憫な姫君を追ってきちゃった。すぐに終わらせるよ」

「や……やだ、、ぜんぶ大切な記憶なの!」

「……次にこの〝報い〟が発動したら君の事を容赦なく殺すから…」

「っ!」

 不意に目の前が明るくなり、瞳孔の奥に眩しい光が鋭く押し込まれた。瞬間的に強い光に覆われ、頭の中に真っ白な靄がかかる。