「だったらやっぱ戻って休んだ方がいいって…」

「わたし……色んな事を、こんなにたくさんの大切な事を……ずっと忘れてたなんて…!」

 過去の記憶が情報となって頭の中へ一斉になだれ込む。大切な両親との記憶。此処へ来た理由。この場所に留まった理由。

「なっ…? どうした、何言ってんだよ!」

「忘れちゃだめなのに…っ、今までわたし……あっ…痛…っ! ぃやぁあっ…パパ!!」

 酷い頭痛と鼓膜の奥で不規則に脈を打つ様な耳鳴り。過去の出来事が白昼夢の様に鮮明に甦っていく。次々と混在してゆく記憶に惑わされ、どうしたら良いのか分からない。

「スズ!? 頼むから少し落ち着けって!! お、親父っ! スズの様子が変だ!」

 当惑するセィシェルの傍ら、ユージーンは即座に力強くスズランを抱きしめて耳元で叫んだ。

「スズ! しっかりするんだ!!」

「……あ、……マスター…? ……わたし…」

「ああ、もう平気だよ…。大丈夫、何も心配する事なんてないんだ」

 ユージーンの優しく、落ち着いた声。暖かい手がスズランの頭をゆっくりと撫ぜる。

「……だ、だってパパは? それにわたしは…」

「大丈夫……ちゃんと、迎えに来るよ」

「……ほんとう?」