しかしアスセナスの顔色は一向に変わらず、固くとじられた瞼はぴくりとも動かない。

「そんな…、パパ…」

 絶望感と共に喉の奥がひりひりと痛む。次第にずしりと頭が重くなり視界がぼやけはじめた。恐ろしいまでの倦怠感がスズランを襲う。

「いやっ…もっとたくさんしなきゃ……いけないのに…。それとも……スゥのおまじないじゃ、だめ…? パパを守れないの?」

 頭を左右に振り懸命に抗うが暴力的な睡魔がスズランの思考を奪い、気を抜けば今にも意識が飛びそうだ。

「おねがい……だれか、パパをたすけて…」

「───おい、大丈夫かい!? もう平気だよ。君も、君のパパも必ず助けるからね」

「……!!」
(だ、れ…?)

 落ち着いた声。暖かい手。
 ふわりと何かに包み込まれた感覚に気が抜けたのか、スズランの意識はここで途絶えた───。


「───っ! スズ! おいスズ!?」

「っ…!?」

 気が付くと、酒場(バル)の床に身体を小さく丸める様にして屈み込んでいた。頻りに背中を摩ってくれているセィシェルの手がとても暖かい。

「スズ? お前本当に平気か?」

 その問いにふるふると首を振って声を絞り出す。

「あ…、頭が割れそう……っ」