幼子とはいえスズランを抱いたまま全力で駆けた為、相当息が上がっている。

「何言って、るんだ…。スズは、とっても……頑張ったじゃないか…っ」

「でもさっき…」

 アスセナスはスズランを優しく下ろすと、高架橋の太い柱に身を預け腰を下ろす。

「ん……止血、しなくてはな。……さっきのは光で目を眩ませて一時的に…っ身体に痺れをあたえただけだから……もたもたしていたら…、追ってくるかもしれない…。それに(ラヨス)の力を使ってしまった以上、追手にも…」

「でも。痛くないのでよかった…」

「うん?」

「あ、あのね。さっきのおにいちゃん、ないてたの。もしかしたらどこかおけがしてたのかも、、とってもかなしそうだったから…」

 もちろん危険な目にあわされたという事は承知の上だ。それでもあの少年から滲み出す様な激しい感情をスズランは無視出来なかった。

「うん……彼らに攻撃は加えていないよ。そうだね、本来ならば大人が手を差し伸べて……救ってあげられれば一番良いのだろうけど…。今の僕は、何も出来ない。本当に無力で…、情けな…いな…」

「パパ?」

「ごめん……スズ。パパこそ、ちゃんとスズを……守れ、なくて…。せめて、守りの術を…っ」