少年たちが狼狽えている隙にアスセナスは素早くスズランを抱き上げた。

「スズ! 大丈夫か?」

「パパ…っ」

 漸く解放され、なだれ込む様にアスセナスの胸にしがみつくスズラン。

「チッ、逃がすかよ!!」

 少年は眩しさに目を抑え、ふらつきながらも懐から小刀(ナイフ)を出して闇雲に振り回す。加減を失い、重さの乗った刃先が容赦無くスズランの身に襲いかかった。

「ああっ…つぅ!」

 既のところで身体を反転しアスセナスは背中でその刃を受けとめた。

「パパぁ!」

「っ…パパは、大丈夫だ…。早く行こう」

「ま、待てこの野郎!!」

 少年を振り切ると、アスセナスはそのまま振り返らずスズランを抱えて走った。
 狭い道幅に、似た様な古びた建物。割れた石畳に足を取られ、何度も転びそうになる。何処をどう進んでいるかなど見当もつかないが懸命に、足を止めず走り続けた。

「っ…はあっ、はあっ……く、はあっ…」

「パパ……だいじょうぶ?」

「…っ、スズこそ……怪我は、ないか?」

「うん! でもごめんなさい、ちゃんとパパのことまもれなくて…」

 闇夜に聳え立つ壮観な高架橋の袂に近づくと、アスセナスは一旦足を止めた。