「ごちゃごちゃうっせえ! どけよチビ」

 痺れを切らした少年が荒々しくスズランの胸ぐらを掴みあげた。その華奢な身体は容易に地面から浮く。

「ぁ…っく、ぱぱ……を、っいじめたら…、だめ」

「っ…やめろ! スズを離せ!!」

「何訳の分からねえ事言ってんのか知らねえけどよ、俺らは生きてくのに必死なんだ! 金になるなら人攫いだって何だってやる!」

 余裕のない口調は苛立ちを増し少年は更に激高する。

「ぁ…っく」

「や、やめてくれ! 頼むからその子から手を離してくれ!! 代わりにならいくらでもなるっ! その子だけはっ…」

 哀願するアスセナスを見下す様に目の前の少年は嘲笑った。

「はっ、何だよそれ…。親の愛とかってやつ? 子供の為なら命をかけるってかァ!?」

「当然だ!!」

「っ……嘘つけ、親なんて……大人なんて自分の事しか考えてねえ癖に!! ガキの事なんてただの所有物としか思ってねえんだろ!? そして使えねえって分かればカンタンに、まるでボロ切れみてえに捨てやがるっ!」

 少年の手と声が震える。表情は確認できないがスズランには少年が泣いているように見えた。

「…?!」

「そんな大人ばかりではない筈だ!」