「やれやれ。仕方がありませんね。おじょうちゃんは邪魔なので退けていなさい。でないと、───死にますよ?」

 急に男の声色が下がり、脅しでは無く本気で言っているのだと容易に分かった。だがスズランとて譲る訳にはいかない。頑として男を睨み続ける。

「っ…パパをいじめないで!」

「……全く。だから子供は好きになれない…」

 男はアスセナスにしがみついているスズランの首根を掴みあげ、容赦無く後方へと払い除けた。
 
「きゃぁっ!」

「スズっ!!」

 スズランの華奢な身体が地面に打ち付けられる。衝撃で口の中に血の味が広がり涙で景色がぼやけるも、すぐ様起き上がりアスセナスの無事を確認した。

「パパ…っ」

「おぉっと、これは失礼致しました。しかし心配は無用です。何ならこの娘も用が済み次第リリィオス公と共に貴方の元へ送って差しあげますから。さあ、貴方には一足先に行っててもらいましょう」

「……っ」

「我が皇帝に永遠(とわ)の祝杯を…」

 そう言いながら男は禍々しく歪んだ表情で再度、掌に黒い球体を生み出す。
 先程よりも大きく生成されたそれを見た瞬間、スズランの中で感情が爆発するのが分かった。

「だめ!! やめて───!!!!」