アスセナスが鋭く言葉を返すと、今度はさも正しい事を行なっているかの様に大袈裟な口調で話し始める。

「なんと!! 騙すだなんてヒト聞きの悪い…。私はただ離ればなれになってしまった家族に救済の手を、と思いましてねぇ」

「救済? どの口が…! お前たちの悪行にどれだけ多くの民と家族が引き裂かれ、犠牲になったか……お前に家族の温もりが分かるものか!!」

 アスセナスは怒りに満ちた瞳を黒いフードの中の闇へと向けた。

「貴方は随分と失礼なヒトですねぇ。私にも愛する家族位おりましたよ? 確か…、娘だったか息子だったか。はて、もう忘れてしまいましたけど」

「っ…なんて愚劣な…!」

「……もういいですよ。ここまでお話しても分からないのならば力を行使するまで。大人しく娘を寄越せばいいものを…。実に残念です」

 男は毒気のある鋭い声でそう言うなり頭上に片腕をのばす。

「っ!?」

「悪く思わないで下さいね…?」

 そして掌から禍々しい黒い球体を生み出し、それをアスセナス目掛け勢いよく放った。

「何をっ…ぐ、ああぁ…!!」

 闇を凝縮した様な球体が身体に触れた途端、それは這う様に拡がり一瞬の内に無数の切傷を作る。