「……そ、そんなの…、わたしは…っ」

 ハリの言葉はまるで毒の様にスズランを侵していく。言われている事に身に覚えなどないが何故か心拍が速まり、ずっとなりを潜めていた筈の目眩に見舞われる。

「無自覚とは何とも恐ろしいですね」

「ハリってば。一体どうしちゃったんだよ? スズランちゃんはそんな子じゃあないって」

 見兼ねたジュリアンが間に入るが。

「貴方まで彼女を身びいきするとは…、全く呆れます。……分かりました、ここでは私が何を言っても無駄の様で。でしたらジュリアン殿も此処で何の役にも立たないこの者たちと呑気に仲良くしていればいい」

「っ…!」

 ハリの暴言。頭痛と目眩による吐き気。
 それに伴い体温が急降下していく。
 耐え難い程の圧力に気分が悪くなりスズランは口元を抑えてその場に座り込んだ。

「スズ!? 具合悪いのか?」

(嫌っ…気持ち、わるい……)

 セィシェルの問に答えたいが気を保っているのがやっとだった。

「おいハリ…! いくら何でも今のは言い過ぎだぞ。ごめんねスズランちゃん! ハリはほら、あいつの側近だからさ! ちょっと動揺が大きかったってか、普段はこんな酷い事を言う奴じゃあないんだけど…」

「ジュリアン殿。やはり貴方には任せられない…。その様な覚悟ではライアの側近など務まらないですよ?」

「なっ! 俺は別に…ってハリ、お前真っ青だぞ? お前もどっか具合悪いんじゃあ…」

 ジュリアンが近付くと同時にハリも力なく床へと片膝を着いた。

「っ…お構いなく。もう、行かなくては…」

「どこ行くんだよ、無理するなって。アーサにもそう言われてんだろ?」

「僕に…、触るなっ……」

(どうして…? どうしてハリさんはいつも孤立する様な言い方をするの? そんなふうに意地悪な言い方してたら、ひとりぼっちになっちゃう……のに…)

 更にハリの荒らげた声が耳の奥で響く───。

 スズランの心は堅いまま咲かずに枯れゆく蕾の如く、愁いに蝕まれていった。