「でも……やっぱりこわい…」

 またも自らの声で浅い眠りから醒める。まだ窓の外は薄暗く、冷たそうな霧が舞っていた。
 幾らばかりかは眠れただろうか。
 何か夢を見ていたような気もするが、気にも止めずスズランは起き上がった。
 鏡台の前に座ると泣き腫らして酷い顔の自分自身と目が合う。


 ───叶わないのではなく、届かない

 散々迷惑をかけて
 無礼な行いを繰り返した

 その人柄と善意を
 自分に向けられた好意だと勘違いした


 ハリの言う通りだった。
 守りたいと言ってくれたのは、それが彼の使命だから。スズランが事件に巻き込まれる可能性がある未成年だから。彼はこの国の民の為に働いているだけであって、自分は特別でも何でもない。

 でも。
 では、あの口づけは?
 あの口づけは、ライアの本心ではないのか?
 あの一時だけは心が通じ合えたのだと強く思えたのに。

 『俺の事、信じて欲しいから』

 今更ライアの言葉が脳裏に浮かんだ。なんて往生際が悪いのだろうと自分でも呆れる。

「……信じたって…っだめだもん!」

 硝子の如く粉々に割れて砕けてしまった気持ちはもう元通りにはならない。当たり前の事だ。