旅人の様な身なりでも何処か気品のある佇まい。無駄のない優雅な所作。昨夜も国営の宿の特別な部屋へと難無く通された。
 この森で出会った例の警備員こそこの国の王子、アーサ王子ではないかと考えた事もあったが、それならばジュリアンの言葉全てに合点がいく。
 だが手がかりは他にも多数あった。ライアが酒場(バル)に通い始めたのは初めてこの森で警備員に出会ったあの日からだ。良く考えてみれば分かった筈なのにスズランが勝手に勘違いをしたのだ。マントを貸してくれたあの夜も勝手に……。
 彼の瑠璃色(るりいろ)の瞳は嘘などついていなかったのに。

「……わ、わたし。今までものすごく失礼な事ばかりライアに…」

 しかし、最早ライアと気軽に呼んで良い人物ではない。知らずとは言え、どれだけ無礼で愚かな行いを重ねてきたのだろう。今までの愚行の数々が一度に押し寄せ、全てを思い返すと急激に血の気が引いた。気持ちに拍車をかけるかの如く森の樹々がざわめき始める。久々に雨粒のない空を愉しんでいる様な爽やかな風が吹き抜けるが、とても心穏やかでは居られなかった。

「───スズラン!? いるのか?」

(っ…!)

 更にライアの声がすぐ近くで響いた。急に怖くなって踵を返し駆け出す。