「何だよ……だったら今から王宮にでも行って確かめて来ればいいだろ! これからはあいつに守ってもらえよ! 俺はお役御免ってか!!」

 セィシェルの卑屈な態度に全身が震えた。

「っ…何で、そんな言い方するの? わたしはセィシェルの事そんなふうに思った事一度もないよ…」

「……一度もか? それって俺を全く意識してねぇって事だろ、一度も…」

「ちがうっ! わたしはセィシェルの事、本当のお兄ちゃんみたいに思って…」

「だから…っ俺はお前を妹と思った事なんて一度もねぇよ!! ……苛つく…」

 突然強引に腕を引かれ、石段の上段から足が浮く。

「きゃ?!」

 危うく転倒しそうになるも下段に居たセィシェルがスズランの身体を抱き止めた。

「……」

「ご、ごめん! 痛くなかっ…」

 慌てて体勢を整え、顔を上げると至近距離で漸く目線がぶつかる。セィシェルは眉根を寄せて苦しげな顔で囁いた。

「っ…やっぱ行くな…。俺の傍に居ろよ、スズ…」

「…っ!」

 そのまま顔が真近に迫り、互いの唇が重なる。見知らぬ薄い唇の感触。
 ほんの僅かに触れるだけの短い口づけ。
 それでもスズランの心を大きく揺さぶるには十分だった。