淡々と言葉を並べるセィシェルだが怒っているという感じでもなく達観した様な口調だ。自分から構うなと言っておきながらそれを淋しいと思うなど、なんて我儘なのだろう。何も言葉を返せず震える声でただ名前を呼んだ。

「……セィシェル…」

「っ…なんて顔してんだよ!」

「だ、だって」

 スズランは涙を堪えるのに全力を注いだ。喉の奥がひりひりと痛む。しかし振り返ったセィシェルの顔もまた今にも泣き出しそうな程に歪んでいた。

「俺は…、俺だって……ずっと傍でお前の事守って来たんだ! それを、いくらこの国の王子だからってあんな奴にすんなり渡せるかよ!!」

 堰を切った様に喋りだしたセィシェル。今しがた聞こえた〝この国の王子〟という言葉に耳を疑う。

「……え…。今なんて言ったの…?」

「……」

「ねえ、セィシェル…っ!」

「っ…スズだって知らなかったんだろ? あいつの正体。あいつ、この国の王子なんだぜ!? こんなの笑えねぇだろ!」

「……嘘…」

「嘘みてぇな話だけど親父は初めから知ってたぽいし、なんならあいつまだ色々隠してるぜ? お前今まであいつの正体も知らなかった癖に、本気で好きって言えるのか?」

「っ!!」