裏庭のオリーブの木には常時熟したオリーブが実っている。その実を一つ一つ丁寧に収穫していく。

「……セィシェル、今日は起きてくるの早いね」

 普段ならば午後の仕込みの時間まで睡眠を取るセィシェル。今日はまだ正午を回っていないが既に仕事着に着替えている。

「あぁ? 王子と王女の帰国だか知らねーけど、あんなくそでかい祝砲とやらを何発も鳴らされて寝てられるかよ。ま、そのおかげで店の客足は倍になるだろうから有難いっちゃあ有難いけどな」

「う、うん。もしかしてマスターも起きちゃった?」

「さあね、親父は昨日遅くまで仕込みの準備してたからまだ寝てるんじゃあねぇの?」

 それを知りスズランはオリーブの実を採る手を止めた。遅くまで営業をしている酒場(バル)。酔った客を帰らせた後店を閉め、仕込みが多い日は朝方近くまで働くユージーンの身を案じる。

「……そうなの。じゃあ今日は少しでもたくさん休んで欲しいな」

「だな。代わりに俺が早めに仕込み入っとく。今から二度寝って気分でもねーしな」

「じゃあ裏庭の片付けは任せて!」

「おい、これ一人で全部やんのか? まだ中にも空き瓶あるぜ」

 店の裏庭には数日分の空き瓶や樽が乱雑に置かれていた。