「ライア……わたし、あなたに伝えたい事が…」

 満を持して言い出そうとした瞬間、こつこつと扉を叩く乾いた音が部屋に響く。

「……」

 ライアはベッドから身を起こし外衣(ガウン)を羽織ると扉を僅かに開いた。
 扉の隙間から昨夜部屋まで案内してくれた女性の姿と声が聞こえてきた。何やらやり取りを終えるとライアはこちらへと戻ってくる。

「スズラン、服が乾いた。でももしよかったらこっちの服を着てくれないか?」

 ライアにとても大きな紙袋を手渡たされ戸惑う。

「……え、どうして?」

「あー、……えっと。朝からその給仕服だと少し目のやり場に困るから」

 決まりが悪そうに瞳を逸らすライア。

「そ、そうなの?」

「俺、そっちの続き間に行ってるから着替えたら声かけてくれよ」

「うん……」

 ベッドの上に転がっているカップを拾いあげると、ライアは足早に奥の部屋へと行ってしまう。

(よ、よく分からないけど、困るってことはうちのお店の給仕服が苦手なのかな? ってそれより! さっき途中で…)

 勇気を振り絞ったが途中で遮られてしまった。このままでは気持ちだけがまた堂々巡りだ。
 だが、まず着替えなくては酒場(バル)へ戻る事も出来ない。