幼い頃から幾度と無く繰り返し見る夢。

 夕暮れ時。

 小川が流れ、小鳥が囀る美しい森で父親とはぐれ迷子になる。
 そこに颯爽と現れてスズランを励ましてくれる人物。その人は太陽の様に明るい笑顔を浮かべ、一緒に父を(さが)すと約束してくれる。
 そうして泣き虫な自分に〝涙が止まるおまじない〟と言って、(まぶた)に口づけをしてくれるのだ。
 夢と分かっていても照れてしまう内容に、これは自分の心の弱さが創り出したのだと言い聞かせた。もう何度目かも数えきれない程見るので、最早脳裏に焼き付いてしまったのだろうと深く考えるのを諦めた。幼い頃の自分が実の父に捨てられたと言う事実に耐えきれず、これ以上傷つかない様に……そういった思いがこの夢を見せるのだろう、と。
 今の自分には本当の父の様に優しいユージーンと、少し意地悪だが兄の様なセィシェル。この二人がいる。もうそれだけで十分だ。
 リノ・フェンティスタ全土が内乱で混乱する最中、平和を誇るこの国へと移って来れただけでも幸運なのだから。

 頭ではそう割り切ったつもりだった。

 だが数年前に偶然〝例の場所〟を発見して以来、どうしてか引き寄せられてしまうのだ。

「……はぁ」