忘れてしまった記憶たち。
幼い頃の───。
忘れてしまった訳では無い、覚えていないだけ。今は思い出せなくても記憶はちゃんと心の奥で眠っている。
──────
───・・・
ふわふわ。
あたたかい。
なんだか安心する。
(あれ? わたしのベッドってこんなにふかふかだったっけ? こんなに広かった…?)
「……ん…」
ふわり、と良い香りが鼻腔を擽る。更に華奢な陶器がふれ合う様な耳慣れない音がスズランを浅い眠りから呼び起こす。まだこのやわらかいベッドを堪能していたいが、スズランはゆっくりと身を起こした。
「起きたのか、スズラン……よく眠れた?」
「…、…んん、、あ さ? …!? ひゃぁああ! ラ、ライア、っなんで上、脱いでるの?」
窓から射し込む早朝の薄明るい光の中、目に飛び込んできたのは上半身裸のライアだ。予想外な姿に急いで毛布を被り隙間から様子を伺う。
「ああ、悪い。今湯を浴びたから……お前も浴びてくる?」
「い、いい。昨日お風呂入ったし」
「何、照れてんだよ」
「だって…っ」
普段から鍛えているのだろう、程よく引き締まった身体。細身でしなやかだが力強い腕。