遠慮しつつも歩み寄ってみる。

「……ここって、あなたのお家なの?」

「違うよ。たまに利用する宿なんだけど、俺も来るのは久々かな」

 そう言うとライアはにこりと微笑んだ。
 初めて自分へと向けられたその笑顔に心臓が高鳴る。

「……そ、そうなの?」

「ああ。ほら、風呂に湯を張ってもらっておいたから先に温まっておいで」

「え…! お風呂? わたし別にいい! この外衣(ガウン)だけでとてもあったかいし、服が乾いたらすぐに帰るからっ…」

「でも疲れてるだろ? ……何なら俺が背中、流してやろうか?」

 強引に手を引かれ浴室の前まで連れてこられた。今度はからかう様な笑みを浮かべるライア。だが以前とは違い、何処か優しさが含まれている気がする。それでも冗談か本気か分からない様子のライアに胸の鼓動は一層早まる。いや、きっとまた面白半分にからかっているのだろう……。

「なっ…冗談言わないで! だ、大丈夫です、ひとりで入れますっ!!」

 頬を膨らませると顔に熱が集中し、頬が赤く染まる。恥ずかしさから思わず逃げる様に浴室へと逃げ込んでしまった。
 しかしながら、此処に連れて来られた理由がどうしても分からず困惑してその場にぺたりと座り込む。