スズランは二人にいつか恩返しがしたいと常日頃思う様になっていた。店の手伝いを申し出るのも、少しでも恩を返したいからだ。

「早く二人を安心させられるくらいにならなくちゃ」

 あとひと月もすれば齢十六を迎える。成人まではまだ二年あるが、今よりももっと多くの仕事をこなせる様にと仕事に勤しむ。
 朝は誰よりも早く起床し、仕事着に着替えると店内の掃除や片付けに精を出す。
 民族性なのか酒場という夜遅くまで働く職種の問題か、ユージーンもセィシェルも朝は苦手らしい。早起きが得意なスズランには丁度良かった。
 前の晩呑み明かした客たちが汚したままになっている店内の床掃除や乱雑に動いた椅子とテーブルをきちんと元の位置に直してゆく。
 ───と。丁度そこで例の祝砲(しゅくほう)が数砲、盛大に空気を震わせた。

「ひゃあ!?」

 予想以上の大音響で店内の酒瓶やグラス等へびりびりと微振動が伝わる。

「びっくりしたぁ! 今のって王宮の祝砲? 近いからすごい音! 今のでマスターたち起きちゃったかも」

 心配したものの誰も起きて来る気配はなく、普段遅くまで働いている二人を思い小さく安堵する。
 この酒場(バル)と王宮は思いのほか距離が近い。