「───失礼しました。私はこの酒場(バル)に務めているスズランという名の看板娘を探していて…」

「? いえ、あの。それなら…、わたしです」
(あれ…? なんだか不思議な気分。えっと…)

 特に違和感はないのだが、数分前の出来事が曖昧になっていく不思議な感覚だけが頭に残った。

「ああ、そうでしたね。……ではもう一つ宜しいですか?」

「は、はい」

「率直に申し上げます。ライアにとって貴女の様な存在は重荷でしかありません。どうかこのまま関わりを絶って頂きたい」

 冷たく言い放たれた言葉に耳を疑う。

「……え」

「ですから、邪魔なんですよ。貴女はまだ未成熟で一人では何も出来ない若輩者。彼の気まぐれに本気にならないで欲しい。私は貴女にこの事を伝えに参りました」

「気まぐれ…?」

「ええ。今回は我が(あるじ)の気まぐれに巻き込んでしまい申し訳…」

「ちがう! ライアは、ライアの優しさは気まぐれなんかじゃない!」

 つい言い返していた。

「!?」

「ライアはいつだって優しい眼差しで…、あったかい手で守ってくれたもん! いつだって…」

「分かってます。彼は誰にでもそうなんですよ。誰に対してもお人好しなので毎回こうして私が…」