誘導されたとは言え、とんでもない事を言いかけた気がして思わず口元を抑える。依然、感情の読み取れないハリの声が闇の中で響く。

「協力有難う。君の〝欲望〟を一時的に闇で覆い隠した。これで君がどんなに強くラインアーサを想おうとこの暗示が解けるまで頭痛はおきない」

 言われてみれば頭痛や目眩といった類の症状は元々無かったと言っても良い程だ。

「あ…、本当に治った、みたい。ハリさんは?」

「問題ない。それとカンテラが灯った瞬間、鈴蘭は今の僕の事も忘れるよ」

「そんな、どうして?」

「その方が都合が良い。……僕と君は互いを知らない方が良いからね」

 何処と無く自虐的な言い回しに聞こえた。

「でもそんなの…!」

「僕は静かに日々を過ごしたいだけだ。それに、そんなに気になるなら直接会いに行けばいいのに…」

「会いに行くって、誰に? わたしはただ…」

「誰って? 分かってる癖に」

 妙な雰囲気に違和感を覚えたがハリは強引に話を逸した。

「…っ?」

 くつくつと乾いた笑い声があがる。

「鈴蘭に手酷くフラれたからね、旧市街のとある酒場(バル)に通うみたいだよ? あの調子だともう此処には来ないんじゃあない? 実に哀れだね」