「うん。丁度いいや、そのまま真っ直ぐこの光を見つめて…?」

「光…?」

 ハリが手に持っていたカンテラを顔の前に掲げた。途端に火舎(ホヤ)の中の光源が妖しく揺らめく。

「鈴蘭……今、君が一番望んでいる事を教えて?」

「いちばん望んでいる、こと……」

「そう。欲望だよ、ヒトは誰しも欲望の塊。恥ずかしがらずに教えてよ…」

 光と連動するかの如くハリの声が耳の奥に木霊する。

「───わたし、早く大人になりたい…。マスターやセィシェルたちみんなのお手伝いをちゃんとこなせるような、強くてしっかりした大人に…」

「それだけ? 他にもあるだろう?」

「あるけど……だ、駄目。これは誰にも秘密なの…」

「大丈夫、僕しか聞いてない。早く〝それ〟を聞かせて?」

 ハリの中性的な声に光の粒子がふわふわと揺れる。様々な色や形に変化する光から目を逸らしたくても逸らせない。同様にハリの声に逆らえず次第に頭の芯がぼんやりしてくる。

「わ、わたし……ほんとうは、子ども扱いされないように早く大人になりたい…! ライアに嫌われたくないの…。だってわたしライアのことが好…っきゃ……」

 突然カンテラの灯りが消え、辺りは一面真っ暗な闇に包まれた。