「……ありがとうございます。申し遅れました、私はハリという者です。早速で恐縮ですがこの酒場(バル)で働いている看板娘とやらを探してます。もしご存知なら…っ！　…っぐ…！？」

「…ぁ…っ？」

　話の途中、突然顳顬(こめかみ)を突く激しい痛みと目眩に見舞われ脚から力が抜ける。だがハリと名乗った目の前の人物も同様に表情を苦痛に歪めていた。指先を眉間に押し当て苦しそうに息をもらすハリ。

「っ…う、ぅあぁっ…ああ、あ…」

「だ、大丈夫……ですか…？　っ…」

　苦しそうに片膝をついて屈んだハリに声をかけるが、スズランも酷い目眩と頭痛に襲われその場に屈み込んだ。痛みで気道が狭まり、呼吸困難を起こしかけている。

「は…っ……煩わしいなぁ…、ホント…」

「え…？」

　先程よりも更に抑揚のない冷酷な声が耳に届く。体温が急激に下がり、スズランは身震いをしながらもハリの表情を伺った。すると目が合った瞬間ハリは突然声をあげて笑いだす。

「アハ、アハハハっ…！　ああ、これは可笑しいや。誰かと思えば鈴蘭(スズラン)じゃあないか…」

「あ、あの…。どうしてわたしの名前…」

　まだ名乗ってもいないのに、さも知り合いの様に名を呼ばれ困惑する。だがハリはそんな事はお構い無しで笑い続けている。
　異様な雰囲気のハリを、スズランは危疑として見つめた───。