だがライアはあの時確かにそう言った。
 夢の人の同様に、(まぶた)に唇を落として。

「……涙が止まる、おまじない…」

 一度ライアの事を考えてしまうともう駄目だった。

 蓋をした筈の想いが溢れてくる。

 初めて酒場(バル)で出会った時も、幾度となく視線が重なった時も、度々助けてくれた時も…、いつだってライアの瞳は優しかった。
 その手はいつだって温かかったのに……。

「……わたし、なんであんなひどい事言っちゃったんだろう…っ」

 言ってしまった言葉に今更後悔を感じても遅い。あの時、何かを伝えに来てくれたのに話も聞かずに酷い言葉で追い返したのは他でもない自分だ。後から内容をユージーンに聞いても詳しい事は教えてくれなかった。
 ただ、「決して一人で外に出ない様に」と言われたのだ。その為もう暫くの間、森の〝秘密の場所〟にも行っていない。

 建物の壁に凭れかかったまま空を見上げると、小さな星空は厚い雲に覆われ既に見えなくなっていた。また雨が降り出しそうな気配だ。

「そろそろ戻らなきゃ…っ…!?」

 涙を拭って酒場(バル)の中へ戻ろうとした時、裏庭の正面の森に人影が見えた。その影は次第にこちらへと近づいてくる。