「あら、いいのよ。まだまだ気になるお料理もあるし、明日に取っておこうと思ってるのよ?」

「っ…じゃあ明日、たくさんおまけします!」

「ったく、そうさせてもらうしかないな」

 これにはセィシェルも渋い顔で賛同した。

「まあ。楽しみにしてるわね! ああ、そうそう。貴方ちょっと良いかしら?」

 言いながらセイシェルの耳元に顔を近づけるエリィ。

「は? 何だよいきなり…!」

「あたしね。そういう初心(うぶ)な反応嫌いじゃあないわよ。むしろ応援しちゃうわぁ! 色々と大変かとは思うけどこれからも頑張ってね、スズランちゃんの番犬(ナイト)君」

「っな!? 何言って……アンタに言われなくても俺はっ…!!」

 語尾を強調して片目を閉じるエリィにカッとなったセィシェルだが、それ以上何も言い返さずに言葉を飲み込んだ。

「うふふ可愛い。今日はあなた達出会えてとっても素敵なひと時を過ごせたわ。ご馳走さま! じゃあまた明日ね」

「はいっ…ありがとうございました!」

 颯爽と踵を返し肩越しに小さく手を振ると、エリィは店を後にした。

「はぁぁ、エリィさんって何だか不思議なひと。でもとっても素敵だったなぁ…! ね、セィシェル!」

「ったく。馬鹿力ゾンビ女でとんだお節介女だぜ…」

「? お節介って?」

「……はあ。何でもねぇよ、もう仕事にもどれって」

「はぁい」

 セィシェルはこの後も仏頂面でいつも以上に厳しく、スズランに言いよる客を遠ざけては鋭く瞳を光らせた。
 実際、セィシェルの過保護過ぎる監視の目のおかげで常連客の間では〝不可蝕の看板娘〟と密やかに有名なスズランであった。