逞しい腕はスズランをしっかりと包み込んで離してくれそうにない。それでもこの状況が理解出来ずに思ったままの事を口にした。

「っ…なんで、どうして……ライアがいるの？」

　大切な物を守る様に優しく、しかし力強くスズランを抱きしめるライア。

「……よかった、無事で…っ」

　ライアが目の前にいる。この数日の間。考えない様に、思い出さない様にしていたのに。
　想いに無理矢理蓋をして、心の奥底にしまい込んで鍵をかけた筈なのに。

「っや、、離して…！　突然なんなの？」

「っ…スズラン、話がある。とりあえず早く中に入ろう」

　ライアはそのままの体勢で呟くと、何故か酒場(バル)の中へと移動を促す。
　そこで我に返ったスズランはまだ仕事中だった事を思い出して抵抗をみせた。

「やだ！　はなしてっ！　わたしに触らないで！！」

「……っ」

　抵抗すると僅かに身体を離してくれたが、代わりに手首を強く掴まれた。その力強さに驚いてライアの顔を覗き込むと目線がぶつかる。たったそれだけだというのにライアは嬉しそうに小さく微笑んだ。
　今、そんな風に笑顔を向けられても困る。

「…っ！　お願い。その手を離して！　わたし…っ」