灰色の街。

 (そら)から落ちてくる冷たい雨粒。


 常秋の国、シュサイラスア大国の気候は明らかに異変じみていた。

 雲は高く晴天が広がり、夕刻には黄金色の太陽が傾き美しい街並みを橙色に染める。
 しかしながら、ここ数十日。シュサイラスアでその素晴らしい景色は一切見られていない。
 先月から止まない雨に見舞われた街は、観光客の姿はもちろん民たちの姿さえまばらで閑散としていた。

 幸い酒場(バル)の客層に大した影響はなく、本日も店内は常連客で賑わっていた。だが専ら話題にのぼるのはこの長雨と、更に深刻な問題となっている〝誘拐事件〟についてだった。


「───いやあ、怖いねえ。リノ・フェンティスタでは一番平和な国と謳われているこのシュサイラスアで誘拐事件だなんて……」

「しかも立て続けにだろう? うちの家内や娘たちは家で震え上がってるよ」

「はっ! お前んとこは誰も心配要らねぇって!!」

「ああん? そりゃあどういう意味だ? お前の所の嫁さんこそ男勝りで有名じゃあねえか!」

「うるせぇ、やんのか?」

「まあまあ、落ち着けよ二人とも。しかし、この長雨だぜ。外出も控えられるし丁度いいってか…?」