「……ライア…！」

　思わず名前を口に出していた。
　賑わう週末の店内。楽しそうに酒や食事を楽しむ客の中で一際目立つ容姿。
　ライアは以前何度か来店した花街の女性たちに囲まれて何かを話し込んでいた。
　何日振りかのライアの横顔。駆け寄ればすぐの距離だというのにスズランの両足は地面に張り付いたままで全く動けなかった。


「───教えてくれてありがとう！　早速行ってみるよ。ティルダ、君たちに会えて良かった」

　女性ならば誰もがうっとりとしてしまいそうな甘い笑顔を浮かべ、その中の一人の手を取る。すると女性は悲鳴に似た声をあげて顔を赤らめた。

「 いゃぁん、あたしもライアに会えて嬉しいわぁ！　でも、悔しいけどあなた達ってお似合いよね。エリィと上手くいったらあたし達にも報告してほしいわ？　うふふ」

「ああ、もう行くよ。じゃあ…」

　話の内容から、エリィを探しているのだと察しがつく。ライアはスズランに会いにこの酒場(バル)に通っていた訳では無い。やはりエリィと会う為だったのだ。そう理解した途端、また目眩の様な症状に襲われた。
　急く様に踵を返すライアを見つめながら小さく呟いた。

「そんな事くらい、わかってたもん…っ」