セィシェルはスズランのベッドからゆっくり降りると、そう言って部屋から出ていった。

 真っ直ぐな眼差し。真剣な気持ち。
 セィシェルの想いに正直な気持ちで向き合わなければ。今まで通り中途半端に甘えるなんて絶対に出来ない。スズランは両手をぎゅうっと握り、苦渋の思いで決断する。
 もうライアへの想いは永遠に閉じ込めてしまおう。誰にも、自分自身すら触れることの出来ない心の奥底へ。
 その代わりもう一度会えたら必ず感謝の言葉を伝えよう。伝えればきっとこのもやもやとした気持ちも晴れる筈だ。
 本当の父親の様に接してくれるユージーン。
 いつか本当の家族になりたいと言ってくれたセィシェル。優しい二人を困らせる事はしたくない。これ以上欲張ってはいけない。そしてちゃんと自立した大人にならなくては。二人に頼らなくても生きていけるように強くならなくては……。

 スズランは今にも零れ落ちそうな何かをぐっと堪えた。


「───スズ? 入るよ」

 扉が叩かれ、そっと開かれた隙間からユージーンが顔を見せた。

「具合いはどうかな、食事を持ってきたけど食べられそうなら……スズ? どうした、まだどこかつらいのかい?」